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蜜蜂の徒然雑記帳。うっかりネタバレしてることもあるので要注意。
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映画感想:パコと魔法の絵本

 パコと魔法の絵本

 この感動が醒めないうちにまとめ。
 以下ネタばれ。半端なくネタばれ。

■ストーリー
 偏屈で嫌われジジイの大貫は、昨日を失くした少女・パコと出会うことによって自分の生き方を振り返り、後悔します。そして、色々な事に気づかせてくれたパコに何かしてあげたい、パコの心に残りたいと強く願った、少し語弊があるかもしれませんが、パコという少女に恋をしたおじいちゃんの物語です。それと同時に、これは辛い過去に負けてしまった人たちが自分と向き合って、再び明日に歩き出して行く物語であるようにも思えました。

■キャラクター
・大貫
 最初は、どれだけ大きな会社の社長だか知らないけど、悩んで苦しんでる人をクズゴミ呼ばわりするわ、子供が育てていた花壇はメチャクチャにするわ、挙句病院を弱者の掃溜めとか言いやがるわで、コイツマジ救いようがねぇな、と思ってしまいました。でもそれは、彼が他人を押し退けながら必死に生きてきて、ほっと息を吐くことも涙を流すことも忘れてしまうくらい働いてきたから。病気で仕事から解放されて、はじめて味わう「のんびりとした空気」に戸惑って癇癪を起こしてるだけなんだと分かると、勿論それまでしてきたことは許せないんだけど、同時に、ああ可哀想な人だな、と思うようになりました。

・パコ
 朝起きると、枕元にはお母さんからの誕生日プレゼント『カエル王子とザリガニ魔人』があって、それを嬉しそうに抱えながら「パコね、今日で7歳になったんだよ!」と笑顔を振りまく。そして陽あたりの良い場所に座って絵本を読む。毎日毎日、同じことを繰り返し。
 事故で両親を亡くして、自分も一日しか記憶が持たないパコは、だから両親の死を知らないし、毎日誕生日の朝を迎えることが出来る。それが彼女にとって幸せなのか不幸なのかは分からないけど、それを周りで見ている人間は哀しくて、どこか距離を置いていたのだと思います。だから大貫が起こした「奇跡」は、本当は奇跡なんかじゃなくて、誰かがパコと関り合おうとしてさえいればいつか起こった必然なのではないかと。ただ、繰り返す彼女の時間に変化を与えたのが大貫であることには間違いなく、だからこそその偶然が、大貫にとっても病院の人たちにとっても、それから多分パコにとっても、とても大切なことだったのではないかと思いました。

・浅野
 どこか「壊れた」患者ばかりが集まる病院。患者だけではなく、その親類も看護師も、皆どこか変わってる。そんな病院の医者・浅野も例に漏れずにどこか変で、ピーターパンに憧れてる。緑のタイツを履いて、妖精の粉を振りまく姿はとっても変。変なんだけど……感じる違和感。彼は「壊れた」患者と向き合う為に、敢えて「壊れた」振りをしている人に見えました。ピーターパンへの憧れも自身が大人であることを自覚していることの表れなのだと思います。
 涙の止め方を教えてくれと言う大貫に「簡単です。いっぱい泣けば止まります」と笑った姿。とある患者の余命を問うタマ子に「医学で予測できる死期はとっくに過ぎてるんです」と遠くを見つめた姿。あれらが彼の本質なのではと思いました。

・病院の人々
 この病院にいる人たちは患者・職員問わず、誰もが何かしら辛い過去を持っていて、身体だけじゃなく心にも傷を負っていました。大貫の暴言ではありませんが、確かにこの病院には、辛い現実に負けて逃げ出してきた人が集まっていたのでしょう。けれど「パコの為に何かしたい」と願い、動き始めた大貫に呼応するように、病院の他の患者たちにも変化が見られはじめました。それまでもきっと、浅野が優しく、タマ子が少し不器用ながらも彼らが社会に戻れるように促してきたことだと思います。でもそれでは足りなかった。なぜなら自分を変えられるのは結局自分しかいないからです。「パコの為に、絵本の劇をしよう!」それは彼らにとって、とても分かり易いきっかけになったんだと思います。

■構成・演出
 タイトルに負けない、メルヘンな世界でした。言うなら「虹色のおもちゃの国」でしょうか。『カエル王子とザリガニ魔人』の劇中アニメもさることながら、シーン一つ一つが本当にカラフルで音楽も可愛い!でもその裏には切実な現実があって、だからこそこんなにも心揺さぶられる物語になる。大貫は仕事一筋で生きてきた団塊世代の典型だろうし、室町のように挫折した元・子役も多くいるんじゃないかな。そういう心の傷と向き合うのは苦痛を伴うし、現に室町は何度も自殺を図ってる。見守る方だって辛くて、その代表としてタマ子や浩一がいるんじゃないかと。
 構成的には『カエル王子とザリガニ魔人』の物語とシンクロするようになっていて、嫌われジジイ大貫の所業を前面に押し出したのが序盤。パコと出会って徐々に変わっていくのが中盤。パコの為に病院中を巻き込んで劇を演じるのが終盤。そしてラスト――絵本ではザリガニ魔人と戦って力尽きてしまうカエル王子ですが、現実で死ぬのは(散々そんなフリがあった)大貫ではなく、パコでした。記憶のこと以外は至って健全に見えた彼女。事故の傷と痛みは完全に無くなった、とも言われていたのにも関わらずだったので、正直衝撃的でした。でもこの段階で明日へ踏み出す力を持ってなかったのは彼女だけで、だからこんな結末になってしまった……という解釈もあります。納得できるかは別ですが。
 浅野が言うには、パコがまるで元気な女の子のように振る舞い出したのは、大貫と出会ってからだと言います。大貫はパコの為に何かしたいと願っていましたが、その願いは最初から叶えられていたのかもしれません。パコは大貫のお陰で、最後の時を楽しく元気に過ごせたんですから。

 でもでも……やっぱり哀しい。
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